2018年度 TOP8戦評
2018年度リーグ戦
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第5回トーキョーボウル 2018年12月11日(日)明治大学●20-27○関西大学
接戦のあとに残るもの
昨晩は雪国から積雪の便りが届いていた。
首都圏は肌寒い朝を迎えた。
晴天ながら東京湾から流れてくる風は冷たく、厚手の衣服を着込まずにはいられない日曜の昼下がり。
ではあったが、この時期、アメリカンフットボールの聖地、富士通スタジアム川崎(往年の川崎球場)のスタンドは観衆の熱気に満ちていた。
関東代表の明大は秀逸なRBユニットから繰り出されるオプションランを軸にして、QB4西本のロングパスとの組み合わせで、堅実なバランスアタックをみせるかと思われた。
しかしWR5九里へのロングボムが決まると、リードオプションを垣間見せながら主にパッシング攻撃に時間をさいていった。
「スカウティングでは、明大はランで押してくると予期していたのですが、立ち上がりからそのランではなくパスの連続で、これに少し戸惑ってしまって。それでもリーグ戦で悔しい思いをしていたので、このボウルゲームで勝とうと全員が頑張ってくれました」
関西代表の関大松浦監督は、試合開始直後こそ驚きがあったが、先手を取るべきとすぐさまスタッフに指示を与えた。ならばこちらは、ベーシックなまでにQB3入佐のパッシングアタックを前面に押し出してひたすらに進もうと。
その練り上げられたWRのパスコースと適宜なプレイ選択によって、明大のセカンダリーが振られ守備の切れ目でWRが空いていく。そこに長身QB入佐からリズムよく弾丸パスが投げ込まれていった。
加えてタフなOLブロックでRB28吉田の展開力あるスイープにRB44笠田の確実なランで前進をみせて、関大が前半を19-7とリードした。
「秋に引き分けた関学の試合は最後に同点TDを取られていたので、今日こそは勝ち切りたいと願いました。それだけにこのMVPは、すごい嬉しいです」
関大のエース強肩QB入佐は冷静にそう応えた。
両出場校とも強靭なOLとDLを有し、そこに連携する俊敏なLBと安定したDBとSFを持つ好チーム。それが、がっぷりよつに組んでいた。
ハーフタイムには可愛らしい子供たちのチアダンスと明大チアによるまとまりあるパフォーマンスでひと呼吸おいて、後半は3Qに反撃を見せた明大がWR久里へのパスTDとRB22加藤の57ヤードのロングランTDをあげて20-19と逆転に成功した。
「前半にパスを通され過ぎました。それとコンスタントにランプレイを出せなかったことが敗因のひとつ。後半はアジャストできて逆転したのですが、そこからリズムに乗り切れず、そうですね、詰めが甘かったですね」
実直な明大の岩崎監督が的確なまでに分析した。
伝統あるラン偏重のオプション攻撃を基調に突き進んできた明大は、現在ではランとパスとを併用してじっくりと攻め上げ最後はパスで決める比重を高めてきた。そういう新たなスタイルを構築していたのだ。
「負けてめちゃくちゃに悔しいです。これが私自身の今後の課題と糧になります。相手DLのラッシュに焦り、パスが浮ついてしまったことが悔やまれます」
無念ですと、2年生QB西本が視線を下に落とした。
これまで2年連続でBIG8との入れ替え戦にまわり、そういう苦渋に満ちた状況から3年をかけて上昇、今季の開幕戦で法大を僅差で破りそのまま関東2位となった明大。
「この試合に向けて4年生はじめ学生が、自主的によく考えて練習してくれました。その意味においても、本当に意義があるボウルゲームでした」
と爽やかな笑顔を見せた岩崎監督。
4年生が模範を示し下級生がしっかりとそれについていく。
そこで重ねたリーグ戦の勝利がさらなる意欲を呼び、勝利のチャンスがみえる好ゲームを演出した。それで選手たちは大いに自信になった。
「普段のリーグ戦と違い、この秋に関東勢と試合できるのはチームの総合力をはかり知る上でとても有意義です。また全国に関大をみてもらうことができました。この交流戦が続いていけばと思います」
じっくりと勝利の余韻をかみしめる関大の松浦監督だった。
そこにひとつの大意がある。
近い将来には大学選手権に関連するそのベースとなる可能性を秘めた、より大きなボウルゲームに変貌を遂げそうな勢いと連動が感じられてきてもいる。
並びに前年と今回の接戦のなかで、対戦して得られる素晴らしい刺激がさらにお互いを強くして、という相乗効果もみられそうだ。
選手とチームが成長しその育成の礎となるTOKYO BOWLである。
関東学生アメリカンフットボール連盟広報委員長 岩瀬孝文 -
東日本代表校決定戦 2018年12月2日(日)早稲田大学○55-14●東北大学
大いなる次へのステップ
初冬の調布アミノバイタルフィールドは曇天、やや肌寒くなり、気温にして10.5度。
しかし杜の都仙台市から遠路やってきていた東北大ホーネッツにしてみれば、それは暖かいほうであった。
だから皆、快活なまでに身体が動いていた。
それもQB1長谷部から機敏なWR88小坂に高めの難しいパスを通し、WR21長島へはTDパスがヒットしていた。
終わってみれば50点以上を入れられ大差となり。
とはいえ前半14-14に追いついた場面では東北大の健闘が光る好ゲームであった。
社会人アメフトでリーグ制覇などの実績豊富な萩山監督(東北大OB)が先を見据えて静かに口を開いた。
「まずは選手の意識を変えることから始めました。ホーネッツからXリーグのプレイヤーが幾人も出てくる。そうでなければなりません。けっして関東へのチャレンジだけではなく、チーム全員の能力を信じて上げていく、それを考えました」
気がつけば、監督就任初年度にして30名近くの退部者をみていた。
ベンチを眺めてみれば実際のところ昨年よりも選手数が少ない。
それだけ人工芝となった川内グラウンドで厳しいトレーニングをかしてきたということか。
『東北大は年々、強くなってきている。これは楽しみだね』
フットボールファンや関係者が、そうですねと何人もが認めあった。
試合後の記者会見で監督の隣に座した、東北大のOL66小舘主将が胸から絞り出すような声で言い出した。
「必ず通用する部分があったと思うのです。とにかくプレイをやり切ることを念頭に置いていました。でも、早大は一枚も二枚もうわ手でした。それはリーダーとして悔しくもあり、自分たちの詰めの甘さを感じました」
雪深い青森の田舎、津軽地方の出身でアメフトとは縁もゆかりもなかった小舘だ。
高校時代はリンゴ畑に囲まれた校舎から、授業が終わるとすぐに弘南鉄道大鰐線の車両に乗り込み、家がある弘前市内へと帰路についていた、いわゆる帰宅部であった。
それが大学進学後に一念発起してアメフトを志した。そしていまやチームをまとめる主将なのだから、じつに間口の広い魅力あるスポーツだ。
ゲームは、東北大においてキッキングにおける対応の未熟さが露呈し、ある意味、成長の度合いを促すポイントとなった。
良き流れをつかんだあとでの、ロングリターンおよびキックオフリターンTDとで攻守のリズムを逸してしまったのだ。
「いま少しだけですが失望感があります。オフェンスとディフェンスを作り上げて、残るはキッキングゲームに関してでした。そこまで時間が足りなくて。そのあたりは、はっきりとわかっていたのですが」
と、無念の表情をみせた萩山監督だった。
加えて厳しい現実が各所にあった。
ちょうど1週間前に横浜スタジアムにおいてTOP8リーグで最終節の法大戦を闘った直後の早大は、エース左腕QB1柴崎の代わりに、バックアップを務めていた2年生QB8宅和がスターターに立ちWR6ブレナンへ的確にTDパスを決めていた。
さらにはエースRB7元山がベンチの控えに回り、ようやく復調してきた2トップエースのひとりRB30片岡と、新鋭RB44広川にフィールドを任せていた。
また守備では責任感が強いDL97斉川主将がラインやLBの若い守備メンバーをしっかりとリードしていた。
「前半にスペシャルプレイにやられたりして、これがいまのディフェンスの実力であると認識しました。あと2週間で、そのあたりを突き詰めて成長していきたく思います」
そこに勢いに満ちて豪語するわけでもなく、ていねいに語る斉川主将だ。
早大には実現可能な夢があった。
全日本大学選手権で優勝すること、それはあの甲子園ボウルで覇権を得ることでもある。
落ち着きにあふれた高岡監督が応える。
「立ち上がりのまずさはよろしくないですね。そのあたりは、しっかりと仕上げて甲子園へと挑んでいきます。立命大とは毎春の定期戦でスピードやテクニックなど多くのことをつかみ得てきました。そこに勝利した関学大ですから。どちらにしても自分たちのフットボールに集中していくのみです」
さらに、秀逸なRBを育て上げた中村多聞コーチは、ベンチサイドで声を荒ぶらせ『1Qに4TDを取りなさい!』と。そのきつい指示を受けていたRBユニットの面々が、ならば、と奮起して粘りのランをみせていた。
早大は、学生日本一とそれを超える頂へと。
そして北日本の雄、東北大はアメフトの強化育成と地域への普及、関東勢に打ち勝つその望みを真摯なまでに、である。
全日本大学選手権東日本代表校決定戦に進出した2チームには、それぞれの大願があった。
関東学生アメリカンフットボール連盟広報委員長 岩瀬孝文 -
第7節 2018年11月25日(日)早稲田大学○24-20●法政大学
覇権を手にした早大
何かがおかしい、思うままに進まない。
法大は立ち上がり一瞬だけ躊躇した。
押せない、動かない。しかも先が読まれている。
これまでの試合で圧倒していたオフェンスが硬直したその法大の爆発力ある攻撃を堅固なまでに止めにかかった早大守備だった。
しかも慌てることは、まったくないまま。
はなから接戦にありTD1本差および1FG差で決着がつきそうなゲームとみられた。
そこにあったのはスペシャルプレイを有する変幻自在な攻撃の法大と、それらを細部まで徹底分析してきた落ち着きのある早大であった。
前半はQB1柴崎からホットラインのWR6ブレナンへTDパスにRB7元山がランTDをあげ、法大はQB8小田賀からエースWR11高津佐への72ヤードのキャッチアップランTDが決まり、そこにK36三宅による2FGで14対13と追いすがる。
スタンドを埋めた観客は沸き、しびれるまでの好試合になっていた。
「とにかく、辛抱強く、やってくれたと思います。ここまでリーグ戦をなんとか勝ってきただけに、勝利への執着心と諦めない気持ちで、気を引きしめてやり抜きました」
と、ホッとした表情を見せた早大の高岡監督だった。
「さすがにタフな試合でした。リーグ戦も、きつさがありました」
DLの要でひたむきなラッシュとタックルに定評ある斉川主将が、優勝杯を掲げた。
「仲間を信じて、我慢して取ったTDでした。攻撃が終わるたびに、自分でチャンスをものにしていこうと言い続けました」
その快走RB7元山は狙いすました左スイープでTDを2本、しかもOLの鉄壁なブロックに守られた得点であった。
またいくらか懸念されたDBは、副将LB2中村との連携も確かに4本のインターセプトを記録、これからの大一番に向けてひたすらに奮起と精進の道を歩む。
ついには24対20で試合終了。
「実力差がありました。それも点差以上にです。まだまだですね」
法大の有澤監督は、さわやかさを垣間みせ潔く語った。
「ただ、ただ悔しいです。個人でもチームでも、力は出し切りました」
しっかりとチームをまとめ上げたLB5寺林主将だ。
これがラストゲームになった法大WR11高津佐、そのフットボールセンスは有数のもの。華麗なパスキャッチを披露して、ときにQBとしてソフトにスローイングさらにはパンターやリターナーまでをもこなす多彩さにあふれ。そして心底アメフトを愛し楽しんでいた。
陽が落ち冷え込んだ横浜スタジアムのフィールドをあとにする時、そこで一人きりになった高津佐はあたりをぐるりと見まわし、心のなかで頭を下げた。
それは、孤高のエースらしい見事な去り際だった。
関東学生アメリカンフットボール連盟広報委員長 岩瀬孝文
◎TOP8順位2018
1.早大 6勝0敗(東日本代表校決定戦 対 東北大)
2.明大 5勝1敗(TOKYOボウル出場 対 関西大)
3.法大 4勝2敗
4.立大 3勝3敗
5.慶大 2勝4敗
6.中大 1勝5敗
7.日体大 0勝6敗(BIG8とのチャレンジマッチへ) -
第7節 2018年11月25日(日)中央大学●15-22○立教大学
パワフルな立大
今季はとくにまとまりがよい立大だった。
それも冷静果敢なQB3若狭と、立教新座高時代からのチームメイトで、抜群の呼吸で攻め上がるRB2荒竹とのコンビネーションは、シーズン当初からしばしば観客を魅了していた。
そして文字通りエースのWR80河本への高めのパスが面白いようにヒットしていく。
伝統校ラッシャーズのフットボールは、これぞ、であった。
「プレイに思いが、詰まっていたような、そうですね。たとえリードされたとしても取り返す局面でしっかりと取り返す、ようやくそれができた試合でした。あとは、本人はそう思わなくとも、選手やみんなが亡くなった中村ディレクターのためにと力を出してくれて。それはうれしいと思いますね」
手に持つ遺影をすっと見つめた中村監督だった。
試合は立大の新鋭K37黒田と、中大K91福井にエースK12小山のFGで点を取り合う展開で前半は19対12になった。
立大はRB荒竹に走らせTDを得て、さらにWR河本へとパスTDを確実に決めての勝利であった。守備では集散が速くハードなタックルが目を引いた
「今シーズンは3勝しましたが、もっと勝ちたかったですね。守備は粘り強くやることができて。それだけ攻撃には、悔しさが残るシーズンだなと。それでも楽しくできました」
関西の雄、関学高の主将として活躍、立大に進学して4年が過ぎたSF8森上主将だった。
「ここ数年積み上げてきたことがあって、それは『あたり』で勝つことです。これをベースに我々のフットボールは進化していきます」
中村監督はそう言って、静かに歩き出した。
前半からやや受け身にまわった中大は、開始早々リターナーDB97川嶋による93ヤードのキックオフリターンTD1本のみに抑えられてしまった。
八王子に合宿所が新設された中大は、その新たな取り組みのチームメイキングであった。
「残念でした、ラストゲームの敗退と1勝5敗という成績は。そうですねハードワークあるのみですかね」
蓬田HCが淡々と語る。
さらに、心をタフにしてOL78川西主将がこう言い切った。
「負けたら何も残らないとチームを鼓舞していました。去年4位になったからと浮かれていた気持ちがあったのでしょう。この悔しい気持ちを次に生かしてほしいと、後輩たちには伝えます」
新たな環境での取り組みと、その中大が目指すフットボールの完成は、もう少し先のことであろうか。まとまりと爆発力を秘め、一気呵成に進みたい中大だ。
関東学生アメリカンフットボール連盟広報委員長 岩瀬孝文 -
第7節 2018年11月25日(日)慶應義塾大学●10-19○明治大学
明大、東京ボウルへと進む
鮮やかに晴れわたる港町横浜。
たまに東からのハマ風が吹きそよぐ。
そのライト側には増築された新しい外野スタンドが見えていた。
東京調布アミノバイタルフィールドから富士通スタジアム川崎そして横浜スタジアムが、関東学生1部TOP8リーグの主会場だった。
およそ3年の月日をかけて昇りつめた明大はQB4西本のパッシングオフェンスを軸にして、パワーで押し込むランプレイに、ときおり伝統のオプションランを織り交ぜての質実剛健なフットボールを見せていた。
「得意なのはロングパスです。一発、ほうってみようかと。これからもどんどん投げ込みたいです」
走力あるRBをふんだんに揃え、それは泥臭いフットボールで突き進む明大かと思いきや、パスに活路を見出すことも可能であると、にこやかに語る2年生QB西本だった。
「ちょうど1か月が空いて故障した選手も戻ってきましたが、今度は、試合勘が失われてしまって、それを戻すのにまた時間が必要でした。」
いつになく饒舌に語るのが楽しそうにみえた明大の岩崎監督は、選手主体でおのおのが考えながら練習に取り組み、試合しているのが頼もしいと目を細めた。
前半から小刻みな点の取り合いで1TDずつ、それぞれが相手チームの主要プレイを分析している状況での押し引きがあり。そこで最後はFGで決着がついた。
「場内アナウンスで、記録を出したんだなと気がついて、びっくりしました。FGはつねに100パーセント決めるんだと考えて、集中しながらのキッキングでした。正直、この記録はうれしいです」
このゲームでFG4本を成功させて、トータルでFG13本を決めてリーグ新記録となった明大K37佐藤だった。
慶大は持ち味のノーハドルオフェンスを軸にして、徹底して食らいつこうとした。
そしてディフェンスで鉄のアタックがあり、ロングキッカーで安定したK9廣田が控える。
今シーズンの2勝4敗という成績には、まったく納得がいかず。
であればどのような打開策を施して、である。
「守備のインターセプトがありましたが、力負けでした。決定力不足ですね」
慶大の久保田監督は冷静に試合を振り返った。
主将として躍動、ケガもあり最後はベンチで声を張り上げていたSB13松岡もひとしきり悔しさにまみれた。
「オフェンスとして守備の頑張りに対して、悪いなという気持ちがあって。ディフェンスはものすごく頑張っていましたから」
その負けを感じて多くを悟り、そこから胸を張って次の世界へと進みます。と、松岡主将は後輩たちへ向けて希望を託した。
今季TOP8リーグで第2位になった明大は12月9日(日)に開催される東京ボウルへの出場が決まり、関大と対戦する。会場は富士通スタジアム川崎で13時30分開始。
関東学生アメリカンフットボール連盟広報委員長 岩瀬孝文 -
第6節 2018年11月11日(日)法政大学○23-0●立教大学
守備の重圧
激しいタックルとボールキャリアに対する集散の良さで、立大守備は覇気をもってロングゲインを許さなかった。
法大の得点をエースRB3岩田のラン1本に抑えて、あとはK36三宅によるFG2本。
よし、いけるという手応えのまま味方の攻撃に託した。ではあったが、そこに巨大な壁が立ちはだかった。
「ボールを受けて、走ろうとするのですが、もうそこに重圧がありました。わたしはカットして進むよりはOLと一緒に押して前進するスタイルのランで、あの大柄なDLに圧力をかけられると、もうどうしようもなくて。オフェンスで点を取りたくても簡単にはいかず、止められて悔しいです」
立大のエースRB2荒武は無念さを口にした。
そこに、しばらくして立大の中村監督がていねいにつけ加えた。
「厳しさあふれるタックルを浴びせて攻撃に転じ、時間をコントロールしてFGの1本でもいいから僅差で勝つ。そういうゲームプランを思い描いていましたが、どうにもアジャストされていましたね」
控室の前で、じわりとやるせなさに包まれる。
そして、いや、これではいけないと通路の天井を見つめた。
アメフト伝統校立大の進む道は、なのである。
法大のパッシングシーンにおいてWR11高津佐へのパスを、鋭いままにインターセプトしたSF8森上主将がみせた一瞬の微笑みは、この試合にかけた思いの表れだった。
さらにはホットラインのQB3若狭からエースWR80河本へのアウトパスが幾度も成功。要所において、その頑張りが光り輝いた。
立大守備の低いタックルに止められ、またパスカットされてもあせることなくFGを積み重ね、気がつけば16点差をつけて、最後にはダメ押しのランTDも決めた法大だった。
「我慢強い試合ができた。次も、楽しい試合をしよう」
ハドル内でしっかりとした口調で有澤監督が言う。
「わたしたちは当初からフィジカルとファンダメンタルで勝とうという信念のままにいます。選手のケガもありQBに関してはWRの高津佐を使いながらの展開でした。全体からみればあたふたばたばたでした。早大との試合はパワフルな試合になりますよ」
守備での手応えを感じながら、最終第7節への想いを込めた。
勝利してもなお、ロッカーとして用意されたブルペン室にしゃがみこみ、涙目で悔しさをにじませるフレッシュマンQBがいた。
「決めるべきところで決めきれない。小、中学の頃から憧れだったこの広い横浜スタジアムで、ようやくプレイできたという喜びがあるのに。それなのに、ふがいない自分のプレイで情けなくて…」
なかなか言葉が続かない。
「それでも、ひとりよがりにはならず、一試合を通して先輩方から支えてもらっていることを実感しました。これがわかって本当によかったです」
実直に語る、1年生で先発を任された法大QB8小田賀だった。
この悔しさと並行して、上級生たちのサポートを体感できたことが明日への礎となる。
期待の右腕はパスの精度が増し、さらにランフェイクの技も磨かれ、ここからひと回り以上も大きくなってくる。
そこに精進の道が続いていく。
関東学生アメリカンフットボール連盟広報委員長 岩瀬孝文 -
第6節 2018年11月11日(日)早稲田大学○31-14●中央大学
安定路線の早大
開始早々から攻守に試合を支配した早大は、3Qまでに試合に復帰したRB30片岡による57ヤード独走TDやファーストターゲットのWR6ブレナンにパスをヒットさせてTD3本、さらにはカットバックランナーRB7元山が走り抜けて4本目のTDを記録して圧倒。
「試合前からもう怒鳴りっぱなしで、その余韻があるのかも知れません。試合に挑む、入りがぬるいのです、まったく良くない。頑張っている子はいますが、そうではない選手が見受けられます。だから発奮してがんばりなさいと」
蓬田ヘッドコーチは、素直にそう述べた。
あきらめが早く、こういうものでいい。そういう悪しきフィーリングがベンチ内に漂っていた感の中大だった。
「わずか1ヤードでもボールを進ませようとしていました。そして1プレイの大切さを突き詰めていきたいのです。それがチームを引っ張ることにもなると思います」
オフェンスでひたむきにブロックしていた1年生OL55香取は、至極明瞭に応えた。
1年生らしく、次の立大戦にも思い切りプレイしていきたい。
そう言い、ありがとうございましたと一礼、ロッカー室へ戻っていった。
この日、ランゲームに手応えを感じていた早大。
「これで5連勝なのですが、一度もすっきりしなくて。なんで、こうなんでしょう」
そこにいくらか余裕の表情も見られた高岡監督。
エースQB1柴崎の左腕からの柔らかなパスとハンドオフを心静かに見守り、守備ではDL97斉川主将による抜群なまとまりに安心して、なのである。
「オンサイドキックを蹴られて持っていかれたりと後半は散々でした。詰めが甘いですよ、まだまだです。控えメンバーを出していたとしても、そこでやられていてはなりません。選手層の厚みを増すこと、さらにその引き上げをやっていきます」
守備の要として活躍する斉川主将は、しっかりとチーム全体を引き締めた。
また、RBにおいては片岡と元山とで硬軟揃い踏み、ついに鉄壁なランペアの完成をみた。
縦横無尽にフィールドを駆け巡る、怒涛の快走で魅せていく早大ラン攻撃だ。
「まだまだ足りません。やることはたくさんあります。もとからRBは相手に隙をみせてはいけないのです。(しごいて)もっともっと気持ちを入れていきますよ」
試合後も、早大RB中村多聞コーチの興奮は冷めやらない。
シーズン佳境を迎える11月25日(日)の早大と法大の直接対決。
これはとてつもなくタフなゲームになりそうだ。
晩秋の横浜スタジアム、好天のハマ風は、どちらに味方するのであろう。
関東学生アメリカンフットボール連盟広報委員長 岩瀬孝文 -
第6節 2018年11月11日(日)慶應義塾大学○23-21●日本体育大学
冷静なるままに慶大
今日は、いけそうだ。
立ち上がりから躍動にあふれた日体大オフェンスであった。
「とにかく先制したくて。テンポよくドライブできました」
続けざまに新鋭RB40千代がショートヤーデージをものにして2TDをあげ、ハンドオフした小柄なファイターQB11小林は、にこやかな表情を見せて、そう振り返った。
手堅く速いOLが確実に押し込む。そこで左右にパスを散らせ、合間にキープランをみせて中央ダイブへといざなう。そういう気配りと展開は理想どおりだった。
「後半もみんな落ち着いていました。そこで、もうワンチャンスをものにしていく。それでしたが、無理やり投げてみたりと、なぜなんでしょう」
けっしてあせりはないはずであった。
勝利のときの運に見放されたのか。
ただ、怖いのは慶大のリズムに乗ったノーハドルオフェンスだった。
そこで対応を誤り、一旦、後手後手に回るとすればどのようになるのか。日体大守備はいやおうなしに感じていた。
後半には左右両サイドめがけて、SB13松岡主将とSB19加藤にあっさりとQB1西澤からパスTD2本を決められてしまう。焦りはしないがこれで1TD差だ。
「前半は順調だったのですが、なんというか、ここまで勝つことができていないので、それが影響したのでしょうか。大山監督からは目の前に全力を注いで、1プレイに集中しなさいと。つねに、そうであるのですが」
パンターを兼ねた日体大OL73安藤副将。
4Qになると慶大はRB29谷田がランTDを決めて21-21の同点へと。
追いかけるリズムに乗った慶大が最後は守備によるセイフティで2点をあげ、強気なまでに逃げ切ってしまった。
「後半、落ち着いて対応できたことが、大きい試合でした。それとキック力がありフィールドポジションも良好なところを取れたことも。次の最終節も思い切りいきますよ」
とアップテンポに語り、デイビット・スタントHCにすぐさまプレイの説明を求め、それを熱心に聞き入る、意欲満々な久保田監督であった。
「FGを外したことが悔やまれます。決めてあたりまえ。全部、決めなければ。試合で結果を残す、詰めが甘いですよ。スペシャリストとして道を極め、その先にあるものを追い求めなのです。自分はまだまだです。完璧な仕事をしなくては」
慶大ロングキッカーの好青年K9廣田は、厳しい眼差しで言い放つ。
ストイックに蹴り続け、究極のキッカーたれと一個のボールに思いを馳せる。
これで今季のリーグ戦を終えて7戦全敗となった日体大。
また、チアリーディングの名門チーム日体大ボルテックスはチアボーイを含めて総勢50名近くが、晴れ渡る横浜スタジアムで華麗なジャンプと回転技の演舞を見せていた。
ミーティング後には言葉少なく、そっとひとり静かに控室をあとにした大山監督だ。
今季のラストゲームが12月に控えるトライアンファントライオンズ。
そこに向けてチームを引き締めていかなければならない。
プレイのつなぎ、あるいは捨てプレイ、みせておくプレイ、そこからの伏線のプレイなど、アメリカンフットボールは奥が深い。
アスリート揃いの日体大がみせる力強いプレイは、そのリズムが途切れたときに、一瞬の躊躇がみられてしまう。
このつなぎの感触さえものにすれば勝利はさらりと駆け寄ってくる。
闘将大山監督の苦悩の日々はもうしばらく続きそうだ。
関東学生アメリカンフットボール連盟広報委員長 岩瀬孝文 -
第5節 2018年10月28日(日)早稲田大学○45-10●立教大学
勝利の果てに
「どうみても、これは力負けですよ」
そう潔く、認めてしまう立大の中村監督だった。
そこに、ほのかに清々しさがただよう、それはアメフトルーツ校としての誇りであろう。
これが先、立大の強さにつながるのだ。
「最初から出ているプレイを地道に、繰り返しやっていけば良かったような気がしています。点を取りにいく準備は充分にできていましたから…」
やや反省の弁を交えた中村監督。
ゲームを重ねるごとに落ち着きを増してきた立大QB3若狭が、前を見据えて言う。
「集中力をもって用意周到に準備をしてきました。前半は良くて、それでもTDを決めきれないのが悔しい。私たちはラン主体のチーム、とことん走り続けますよ」
どこまでも鋭く低く脚をかき続け、味方OLラインに守られてスクリメージラインを突破していくRB2荒武とRB21林らであった。
そのRBとQBともに、ひと冬を経て、まだまだ伸びてくる可能性を秘める。
そして、さらに技術アップしてくることだろう。
『立教のバックスはいいからなあ、気をつけなければ』
『そうだよな~』
この先に対戦を控えた大柄なチームの守備選手だろうか、そのように口々に話しながら川崎のスタジアムを後にしていた。
どこととなく余裕の表情でミーティングを終えた早大の高岡監督。
中盤戦から後半戦、しり上がりに好調の波に乗ってきた早大である。
「この試合まで一か月あいて、それこそ入念にトレーニングしてきていましたが立大のプレイスピードについていけるかどうか心配でもありました。3Qにはディフェンスがアジャストして。しかし、あのふたりのRBを止められずにいたのが、なんともですね」
また自軍の若手にもいいのが出てきている、と、早実野球部出身で努力を重ねる2年生QB12吉村のことを引き合いにだした。
守備ではDL97斉川主将とDL70丸茂が激しいラッシュでQBサックを決めていた。
また得点源のエースRB7元山が実践するカットランと前傾姿勢は、タックルを弾き飛ばしながらの豪壮かつ快活なランであった。
「思い切り、つねに全力で走り、最後まで。これが中村多聞コーチの教えです。わたしは、スピードを生かすタイプのランで、後輩たちのなかにはパワフルなランナーが何人もいて個性豊かです。そのみんながタモンコーチからハードな指導を受けています」
さらには決めどころでの主軸WR6ブレナンの柔軟性にあふれるパスキャッチが光り輝く。
そこには、最後まで沈着冷静な左腕QB1柴崎の秀逸なプレイリードがあった。
全勝街道をゆく早大、残り2ゲーム。獅子奮迅なれ。
関東学生アメリカンフットボール連盟広報委員長 岩瀬孝文 -
第5節 2018年10月28日(日)法政大学○30-0●中央大学
孤高のエース
ここに、ひとりのWRがいた。彼はテクニックあるワイドレシーバーだった。
よく見るとほおがぷっくりと、ウエイトが増えたようでもある。
それが微笑ましかった。
「試合途中からやらせてもらったQBは、高校のときに手がけていたので、やりやすくて。ロングパスを決めることができたのが嬉しいです」
にこやかに、はきはきと応えた法大エースWR11高津佐だ。
決めるべき時に決める、その集中力も抜群であった。
局面において余計にマンマークをきつくしなければならない、それは対戦チームの守備にものすごく負担になっていた。
ふと、ベンチサイドを見ると相手のパスキャッチを褒めたたえる高津佐の姿があった。
「よく取ったなって、よく進んだなと、それで自分でもうれしくなってきて。キャッチした選手のそばに寄り、引っ張り起こしてあげるんです」
そうすることで自分も発奮できる。良いプレイには自然体ながら称賛したくなる。
パスキャッチ後にサイドラインの外へ倒れ込んだ中大WRにやさしく手を差し伸べ、助け上げて、尻をポンとはたいて送り返した。
文字どおりそれはアメフトプレイヤーの模範である。
奔放といえる法大の後進たちに、この自由奔放さとはいったい何であるのか我が身をもって示している。それをじっと見つめるサイドラインの1、2年生たちも学びを得ていた。
これからさらに良い形のフットボールができてきそうな法大だ。
試合中、斬新なQB高津佐を暖かな目で見つめていた有澤監督が言う。
「学生たちには、いつも可能性を求めています。ケガで練習できていない選手を含めて全員が、いま頑張りどころなんですよ」
視線の先に見えるのは、11月後半、横浜スタジアムの最終戦であろうか。
チームは最終段階を迎えて、いよいよ引き締まってきた。
かたや中大はシャットアウト負け、とめどもなく元気がなくなってしまうのか。
ただ、それも合宿所新設の初年度で、そこから積み上げるものがまだまだありそうだ。
しばらく、その摸索が続く。
「前の大敗から2週間がたちました。課題を決めてやってきたのですが、なんというか不器用なのと、そこにチームとしての甘さがあるのではと考えて。そのもろもろにしっかりと向き合っていきたく思います」
クールにゲームを振り返る蓬田HCだった。
「リラックスしてキャッチする。その基本を胸にして次のゲームではレシーバーユニットでTDを取ること、そうしていきたいです」
バランスがよいWR84平出は次なる目的を新たに、姿勢を正した。
若きオフェンスもそうだ、中大らしいフットボールの構築を。
それを一刻も早くだ。
関東学生アメリカンフットボール連盟広報委員長 岩瀬孝文 -
第5節 2018年10月27日(土)明治大学○16-0●日本体育大学1敗ながらなんとしてでも優勝戦線に残りたい明治大学と、リーグ戦で「先ずは1勝」を挙げたい日本体育大学の対戦。中味は違えど、お互いに後がないだけに、ピリピリしたムードがコイントスで漂う。
この日の明治は、今季スタメン固定のQB4西本が、中央付近のランに強い日体守備を避けパスで活路を見出す。RB32小泉や22加藤への有効なランフェイクからの、プレーアクションなどで総獲得ヤードの実に80%超をパスで稼ぐ。開幕の法政戦で見せた、ラン/パスの比率とは真逆の攻めとなった。
レシーバー陣も安定した補強力のWR5九里や、この日5回補給101ヤード1タッチダウンの84川端など、QB西本の成長と共に球際にも強くなった。4Qに突入しても10:0の僅差の重苦しい空気の中、17ヤードのタッチダウンパスが明治TE85三輪の手に収まり、観客席もやっと雰囲気緩む。
一方の日体、3Qの自陣40ヤードからの7プレー目、敵陣ゴール前9ヤードの好機、QB11小林のパスは、エンドゾーン内の密集地帯を横切ってきた、この日大活躍の明治LB1徳茂が奪い取り、万事休す。
4Qに入り、未だ同点の可能性の残る中、自陣25ヤードから研ぎ澄まされた集中力により、15プレー目にゴール前5ヤードに迫る。1ダウンは、QB4中村のラン。ファンブルロストかと思われたが、味方のフォローで残り3回の攻撃、未だ、運はある。が、最後の4ダウンG前1ヤードからのパワーランを明治DL90佐々木に足元を掴まれ、6分を要した攻撃は実らず。G前、セイフティの危機を乗り越えた明治の攻撃はタイムアップに持ち込み、2013年以来となる4勝以上をマーク、守備の我慢勝ちが奏功した。
パス成功率も向上し、被インター無し、少ない反則(この日は5ヤードのフォルススタートのみ)で開幕から攻守更に進化。
日体は、再三、好機を得るも得点につなげられず、タッチダウン2本差以内の接戦を落とす苦しい闘いが続く。次節の慶應義塾戦が、今季最大の山場となる。
関東学生アメリカンフットボール連盟広報部長 前川誠 -
第4節 2018年10月14日(日)法政大学○21-18●慶應義塾大学
粘りで魅せた慶大
いつもは明るく笑顔あふれる慶大デイビッドコーチが、うつむいたまま目の前を通り過ぎていった。ここで声をかけては、無粋であろう。
打ちひしがれる表情の彼の背中を静かに見送った。
「ちょっと足りない。キッキング、集まりが良かったディフェンス、ターンオーバーバトルには勝った。やはりあの立ち上がりにTDを取られたことが、響いた。ただ、その後、ずるずるといかずに、しっかりと対応できたのは評価できる」
ぐっと顎を引きながら、先を見据えて進もうと確信していた慶大・久保田監督だった。
守備ラインの要として、重心を低く、突き抜けるヒットをみせていたDL79齋藤は言う。
「なんで立ち上がりに様子を見にいったのだろうと、結果的に受け身になってしまいました。あのワンシリーズが悔やまれます。わたしたちのディフェンスは、LB趙を中心としてまとまり、全員で守ることができました。あとはこれからの試合、4年生として何を残せるかです!」
先制されて、追いつきそうになり、また離され、そこから皆の力で盛り返していった。
それもベンチと一体となって気持ちを途切らすことなく懸命に追い上げた。バックスタンドを埋めた慶大ユニコーンズの応援の人々は、ひとしきり感動に包まれ、なかには後輩たちの躍動に涙ぐむOBさえいた。
さらに快活で、ソウルフルな曲調をベースにハーフタイムショーを演じる慶大チアも、そのきびきびとしたダンスでチームをしっかりと後押ししていた。
前半に2本のTDをあげてリードしながら法大には、そもそも落ち着きがあった。
周囲がよく見えていたディフェンスは、斜め前方向に網の目を張り、瞬時にランナーを追い込んでいった。
「まだ、バタバタですよ。試合勘を養いながら、それぞれが経験を積みながらですね。そのなかでも終始、全体をみても落ち着いていられたと思います。慶大は強かったですよ」
シンプルではあるが勝っておごらず、対戦相手のチーム力を称えた法大・有澤監督だ。
「オフェンスはテンポよくドライブを続けていました。ただ、なんというか、もう一押しが欲しいのです。勝負どころで、もっときっちりと決めていかなければ」
キャッチングも鮮やかに、そこからヒットして走る力強さがある彼だ。さらに的確なランブロックとともに、柔軟にその役目を果たしていた大型TE87川村は、なにかまだやり足りないというもどかしさを感じていた。ならば次、その次の横浜スタジアム最終決戦である。
開幕戦で、今季上昇気運にある明大にFG1本差の逆転で敗れてはいたが、すぐさま立て直し、残りの2試合にすべてをぶつけていく。
そこには秘策があることだろう。その自由奔放さで周囲をあっといわせる研ぎ澄まされたプレイが見られるのも法大の魅力である。
関東学生アメリカンフットボール連盟広報委員長 岩瀬孝文 -
第4節 2018年10月14日(日)中央大学●0-44○明治大学
明大2試合連続の完封勝利
試合の入りからして、ややちぐはぐな印象にあり、徐々に明大のバランスアタックに崩されていった中大だった。
「これは、惨敗でしょう。力を出そうとしても、出せずに終わる。なにも動けずに終わってしまった。球際も甘い、そういうところを一個ずつ詰めていかないと」
サイドラインから試合の進行を見つめていた中大・蓬田ヘッドコーチは、ずっと腕組みをしたままだ。
「スカウティングをしていた時点で明大は強いということがわかっていました。であれば我々の1プレイに最大限にかけていこう、その積み重ねが大切だと説いた。つねにハードにいかなければなりません」
最上級生の4年生として、要所において素晴らしいソロタックルを幾度もみせてチームに発奮を促していたDB36芦澤は、副将としてしっかりとバックヤードをまとめあげていた。
そのもの合口がよろしくないのか、そこに明大による徹底分析もあって、中大は終始後手に回ってしまった。
ずるずると受け身のまま大差の44点を奪われ、しかもシャットアウト負けを喫した。
将来への一歩を刻む、いまはそのような時期であるのかもしれない。
いずれ先には、確かな強化システムを施したコーチングの成果と合宿所効果が表れてくる。
3勝1敗のまま後半戦に突入、上位陣の勝敗を見つめている明大は、チームの厚みを増すためにこの試合、スターターで新鋭SF39福山とSF39村田のふたりと、ついには新人QB8櫻井の1年生を投入していた。
「出場2試合目で緊張しましたが、両サイドのDBに4年生の織田さんと西村さんがいるので安心です。明大の良さというのは選手主体で、みんなで工夫しあって作っているチームなのです。その雰囲気に親しみが持てたので明大に進学しました」
最後尾から大きな声を出して、プレイ方向を示し果敢に突っ込んでいったSF福山は、礼儀正しいままゲームを振り返った。
彼は関西の強豪校、啓明学院からの入学だった。
「でき過ぎですね、今日は。やりたいことがすべてできました。あらゆるものが機能しての完勝です。この2試合連続の完封勝利は大きいです、選手たちの自信につながります。守備にも攻撃にも新人を出すことができ、そういういい流れで、残りの試合に進みます」
ここに至るまで、およそ3年の月日をかけた明大、その道のりは厳しいものがあった。
大柄で優しさあふれる岩崎監督の顔が暗さにまみれていた過去2年間。
一転、今シーズンは夏場のひたむきな練習と高地トレーニング合宿で、いよいよ手応えを感じ得て、心なしか明るさがもどってきていた。
関東学生アメリカンフットボール連盟広報委員長 岩瀬孝文 -
第4節 2018年10月13日(土)立教大学○24-10●日本体育大学
堅実なるまま立大
頼みの4年生右腕、日体大QB11小林のパスが空を切る。
ラッシュに追い込まれるなか、DLによるパスブロックの手をかいくぐるような、サイドスローからの鋭いパスまでも投げ込み、そのポテンシャルの高さを垣間見せた。
そのように守備の分厚さが光った立大、前に斜め横に強烈にプレッシャーをかけ続けた。
安定路線を走るがごとくの立大だ。
「前半に先制できたことが大きいですね。先にリードして試合を作ることができました。チームの主柱であるWR80河本へのパスヒットでリズムを作って、点を取る。またRB21林も気持ちの入ったいい走りを見せてくれました。次は早大です。しっかりと食らいついていきたいですね」
応援にきてくれたベテランOBに丁寧にあいさつし、若手卒業生には元気かと暖かい言葉をかける中村監督である。
「たとえタックルされても、あたり負けないこと、足をかき続けることの基本を大事にしています。そこでひとりふたりとはずして進む。あたってかます、です」
機敏なハンドワークで柔軟さを持ち合わせるパワフルランナーRB21林(宗)は、何度もロングゲインを重ねた。
ファイティングスピリットにあふれるタックルで会場を沸かせる日体大ディフェンスだ。
試合後クラブハウスでのミーティングを終えて、一呼吸おいた大山監督。そしてコーチたちにねぎらいの声をかけ、シニカルなほほ笑みをみせた闘将。
「攻撃がゲインをする、守備がとめる。それができるのですが、なぜか、その先なのです。繋がりが途切れることが気になる。さらに基本に立ち返りでしょうね」
日体大の良さであるアスリート揃いのウィークポイントがそこなのか。連続性にいくらか難儀が見られ、そこにどのようにアレンジを加えていくか、苦悩の日々だ。
「攻撃プレイの予測があたりました。オープンプレイにスクリーンパスともに読み通りでした。いま全敗中であるので、とにかく思い切りよくやろうと心掛けていました」
ブロッカーに囲まれても積極的にタックルに飛び込んでいく、気迫のLB43土田だった。獅子のごとく日体大は駆け上がる。
日体大チアリーダーのボルテックスは、試合会場に欠かさず応援に駆け付け、その演舞は躍動感一杯、声もほんとうによく出ていて、それが選手たちの耳にしっかりと届いている。
最後の最後まで真摯にフットボールをやり遂げる、それが将来の教育者として必ず息づくときがくる。
関東学生アメリカンフットボール連盟広報委員長 岩瀬孝文 -
第2節 2018年9月30日(日)早稲田大学○29-10●慶應義塾大学
終始リードした早大
彼は猛烈にイライラしていた。
やや逆リードになったパスを長い手で、はじいてしまい、それにイラついた。
慶大DBユニットのしつこいマーク下にあって、ボールが飛んでこない。これにもだ。
試合前からきついマークになるのは承知していた。
パスを取り損ね、伏し目がちに首を左右に振る。しかし早大が誇るエースWR6ブレナンはけっしてあきらめることはしなかった。
スナップを受けて、ときに左右にきれいにロールアウトしてターゲットを見つけていた左腕QB1柴崎は、至極、冷静だった。
「翼へのマークがきつくなるのはわかっていました。そうすると他のWRが空いてきます。そこにしっかりと投げ込んでいきました」
この言葉どおりにWR13遠藤やWR15高地らに面白いようにパスが決まっていった。
「得意なのは落とし込みのパスです。けっして、スピードボールを、ずどんと投げるタイプではないですから」
クールながらに語る柴崎。その視野はじつに広かった。
そして突進力があり、足さばきが機敏なRB7元山を駆使しながら、ていねいにフェイクをからませ、プレイアクションの浮きパスとピンポイントの半円軌道のパスなど変幻自在に。
後半には、エンドゾーン方向に走り込んでフリーになったWRブレナンに対して、いとも簡単にパスをヒット。それは高めのボールのみに強いブレナンではない、との魅せたパスになった。
長いスタッフミーティングを終えて早大の高岡監督が現れた。
「良いところでボールを落とすとか、まだ集中力が足りないのではないか。1か月ほど試合が空くので、そのあたりを指導していきたく思います」
より攻撃能力を高め、さらに球際の強さを求めての東伏見グラウンド練習である。
ここまで全勝、その心すでにリーグ最終戦にあり、なのであろうか。
しかも2年生K96高坂が冷静に最長50ヤードを含む5本のFGを決めて、リーグ新記録を達成していた。これで相手陣へ押し込んで止められても、得点が計算できる静かな強さが加わった。
しりあがりに最大のチーム力に仕上げてくる早大の真骨頂はこれから。
試合後には、このところ、あっさりとした面持ちをみせる慶大の久保田監督である。
「慶早戦に勝負をかけていましたが、決めきれなさが出ました。守備とキッキングは良いのですがどうにも、オフェンス全体をしっかりと上げていきたいと思います」
淡々と、我々のスタイルは変えず、現存の戦力でまっとうなまでに、ポジティブにプレイを遂行していこうとした慶大だった。
パスラッシュを激しく、ラン攻撃にはしつこく厳しいタックルで幾人もで、囲い込み。
その長所が現れていた慶大ディフェンス。
「まだ足を引っ張る部分があったりして、自分にふがいなさを感じます。安定したプレイをやり続けてこそなのです」
フレッシュマンらしく礼儀正しく応えてくれた大柄なOL72矢矧。その目が輝きを放つ、そういう若い選手たちがたくさんいる。だからこそ慶大の復活は充分に見て取れた。
しばらくの我慢が、いまこのとき。
先、選手の成長と必ずスタープレイヤーの登場があればこそ。
関東学生アメリカンフットボール連盟広報委員長 岩瀬孝文 -
第3節 2018年9月30日(日)中央大学○17-10●日本体育大学
追い上げを許した中大
この日、関東一帯へは、朝から大型の台風が進んできていた。
気象図をにらみ分析しながらの決定は『会場変更しての試合開催』であった。
それも当初予定されていた天然芝がきれいな夢の島競技場から、人工芝が映えるアメフトフィールド富士通スタジアム川崎へとチェンジになり、各チームは迅速な対応を行なった。
そして、たくさんのお客さんが川崎へやってきた。
昼過ぎから開始された中大-日体大は、ときおり降り注ぐ雨と、フィールドを包み込む蒸し暑さをものともせず、熱戦となった。
「わたしたちは発展途上であると思います。きょうも前半から自分たちのフットボールを貫こうとしていました。ひたむきなドライブを、集中して最後までですね」
つねづね選手たちに情熱を込めて指導する蓬田ヘッドコーチだ。
初戦敗退のまま、八王子の森中にある人工芝グラウンドでじっくりとトレーニングを積んできた中大は、今季初勝利を遂げて一気に昇り調子へと。
選手は100名を超え学生総勢130人以上、大型チームへと変貌していく最中である。
「自分の中ではもっとやれたと思います。それが歯がゆくて、後半はスタミナ不足でした」
果敢にQBサックを繰り返し、意気をはき続けた中大DL10山口だった。
日体大の大山監督は小さめな声ながら、そこには少しばかり優しさの表情がみられた。
「ディフェンスが健闘してよく止めていてくれたから、そのいい場面でオフェンスに回していってと、見込んでいたのだが。ほんとうに、もうちょいですね」
そこは闘将の大山監督、連敗を喫していて悔しくないわけはない。
「とことん走りまくって自分で返してやろうと、それを前半から出せていれば…」
言葉は少ないが、要所で好リターンを見せていた4年生キーマンのRB10諸本だった。
ここまで3連敗、だが、つねに接戦に持ち込む力強さを秘める日体大、後半戦のアスリート魂に期待だ。
関東学生アメリカンフットボール連盟広報委員長 岩瀬孝文 -
第3節 2018年9月29日(土)立教大学●0-17○明治大学
明大、完封勝利
好調の波に乗っている今季の明大。
ようやく、やりたいこと、理想とするフットボールが見えてきた感があり、そこに伝統と気迫の紫紺魂が加わる。
この試合もタイプが異なる秀逸な3人のRB9福田、RB22加藤、RB32小泉がフィールドを駆け巡った。
先発を任されたQB西本はていねいにハンドオフ、そしてフェイクを決め、あるいは鋭いままにキープランに出ていった。
味方OLはうしろから迫るランナーのために強靭に穴をあけて、そのボールを持ったRBの背中を横目で感じながら、ずっと奥まで行ってくれと念じていた。
それが試合中、実直なままに繰り返されている。明大の強さはこれだ。
「得点をゼロで押さえることができました。立大の強いラインに対してしっかりとアジャストできて。雨の試合でボールセキュリティーにも万全を期し、そして何より4年生にまとまりがあった。いよいよ、先に向けて良い流れになってきました」
と、明朗で清々しささえ見られた岩崎監督が言う。
「試合の始めから自分のパスキャッチよりもチームのためにランブロックに徹する展開で最後までしのいでいこうと。とにかく懸命にやっていくことが大切だと思っていました」
雨の中、充足感が満載のTE85三輪であった。
明大は残る3試合に全勝して、全日本学生選手権出場へのチャンスが大きく広がる。
その夢を胸に抱き、明大八幡山グラウンドの北端にある人工芝フィールドで地道に汗を流していく選手たちだ。
今季、強豪の名をほしいままにするかにみえた立大だが、雨のせいなのか、なかなか元気が見られない。
「十分に準備をしていました、明大は。我々に点を取らせてくれなかった。こちらの守備は頑張っていたのですが…。これで、自分らの弱さが確認できました。この先は、そうです、自分との闘いになります。選手おのおのの甘さとの闘いなのです」
志木の人工芝グラウンドで、さらに心を込めて指導していかなければならないと中村監督は話を結んだ。
「DLはまとまりがあり強いプレイができていたと思います。ユニットも仲良くて強くて。それをチーム全体に波及させていくのがわたしの役目です。自分では平常心を持ちプレイで盛り上げていければと、それも目立ちながらですね」
憮然とした表情ながらパワフルに語ってくれたDL56福島であった。
じつに頼もしいDLリーダーだ。
伝統あふれるパープルファイター立大、まだまだ上昇への道はある。
関東学生アメリカンフットボール連盟広報委員長 岩瀬孝文 -
第2節 2018年9月16日(日)早稲田大学○42-32●明治大学
早大、乱打戦を制す
意気高し、栄えあるホームカミングデイとなった明大のスタンドはスクールカラーの黄色と紫でぎっしりと埋め尽くされた。
そこに立ち上がりの先制パンチ。RB32小泉のランTDと秀逸なキッカーK37佐藤のFGでわずか開始4分にて10点を先制、歓声に湧き上がるバックスタンド!
早大はいきなり受け身に回り、よもやの展開へと続くかにみえた。
が、いつもながらのスロースタートではあり、それではいかんと、ようやくビッグベアーズに火が灯る。
こうなれば実直なラン攻撃であろう。
かつてNFLを経験した中村多聞RBコーチにより手塩にかけて育成されたRB7元山とRB30片岡の2トップランナーが、ぐいと中央をこじ開け、そしてオフタックルからずらしてのオープンランで、それも素早い見事な足さばきを見せて、快走を繰り返した。
最上級生のRB元山はダウンフィールドの相手守備タックルを外して鮮やかにTDを決め、その1本で流れが一気に早大へと。
「きついマークになるRBなら本望です。何にしてもランはそこからでしょう。バックスは試合中がタックル練習になるので、それを受けてぶちかましてなんぼ。私のセオリーはそこ、もっと鍛錬しまくりますよ、彼らをね。まだまだですから」
フィールドから去り際にそっと打ち明けてくれた中村コーチ、この早大を指導して3年目、やるべきことは充分にわかっていた。
そこからひたむきな追い上げが始まった。
冷静なエースQB1柴崎の左腕から小気味良いミドルパスが放たれ、奥に走り込んだファーストターゲットWR6ブレナンに向けて、それもインターセプトされないやや高めな浮き気味のパスまでも投じてみせた。そこでTDを得て、勢いの波に乗りながらパスで連続3本のTDを獲得し28-10になった。こうなればもはや早大ペース。
「最後まで粘りをもって、なのですが、まだ、それができていない。先制されて、そのビハインドからのオフェンス、とにかく勝ちたいという気持ちの強さが出てきて、それで良い方向性があると感じられた」
自軍の選手たちに諭すようにていねいに話す早大・高岡監督だった。
「全員が4Qにみせた一体感、これだ! 関西勢の有力チームはそれぞれ2試合目で完勝を果たした。その上でさらに仕上げていこうとしている。関学も立命館もだ。我々はそこで、後手に回ってはいけない。であれば、甲子園制覇という目標の到達は難しい。だからこそ、
もっと奮起していこう」
そこに学びがたくさんあった斉川主将である。
自身の体躯を追い詰め、いじめ抜いていくことがリーダーの証しであるとばかりに、強い眼差しで、力説した。
その明大には、ひとえに後半の粘りがあった。
QB西本のキープランとパッシング、そしてRB福田、RB加藤、RB小泉という3人によるランダイブとオープン攻撃が、後半になるとぐいぐいと出ていった。
「たとえ差が開いても絶対に逆転できるという自信がありました。いまオフェンスは充分にコミュニケーションが取れています。残りの試合を全勝して駆け上がります」
あくまでひたむきなままQBを盛り立てようと、淡々と正確なまでにボールスナップしていた明大C57山本だ、ここにチームのまとまりがみられた。
「幸先よく10点を取って勝機ありだった。そこからていねいに攻めていくことができればよかった。これからも全力でぶつかっていくチャレンジャーとしての意識で突き進みます」
集中した果てに、少し肩で息をして、顔を赤らめながらそこはやりきったという枯れた声の明大・岩崎監督。
さてあの明大の華麗なランオプションは、いつお披露目になるのだろうか。
この紫紺魂いつまでも。
関東学生アメリカンフットボール連盟広報委員長 岩瀬孝文 -
第2節 2018年9月16日(日)法政大学○23-10●日本体育大学
法大のパワー炸裂
地道なマシントレーニングと走り込みで、体格が向上の一途をたどる法大だった。
これにスピードがついてくると、さらに手が付けられないほどのパワーとなってくる。
「このゲームの緊張感でずっとプレイしていくことが大事であり、そこに勝ちたいという意欲が加わり、ものすごい強さになってくる。この勝利で、みんなはそれをよく理解できたと思う」
と、暖かな口調としっかりとした言葉で選手たちの気を引き締めた法大・有澤監督。
エースのWR11高津佐が完全にマークされるのはわかっていた。そこで他のレシーバーにパスを散らしていく、そこに安定したランアタックを加えて守備に的を絞らせない。その基本に忠実な法大オフェンスであった。
司令塔には長身でそのソフトなリリースに特徴があるQB1野辺と、バックアップQBながら歯切れ良いキープランがあるQB12勝本らとの併用が成功した。
対する日体大の守備は2列目からの対応に、ほんの一瞬の迷いがみられてゲインを許していった。
またラン攻撃では、重厚なOL2枚が突進して壁を作り、そこにRB3岩田がついていく、そして魅せる機敏なカットランでロングゲインを重ね上げていった。
ディフェンスでは主将のLB5寺林を中心に前後左右に連携が取れたタックルとそのサポートで、日体大の攻撃を試合開始直後のTD1本とFG1本のみに抑えた。
「いつもどおりやろうと全員に言葉をかけていました。きちんとできる、自信をもってやろうと言い続けました」
リーダーシップにあふれパスインターセプトまでをも記録したLB寺林主将だった。
試合の終了間際にはQB勝本のランを軸にタイムコントロールしながら、右隅に走り込んでのTD。これによって、次、4週間後の試合へ向けて良き勢いをつなげた。
法大守備による激しいパスラッシュと視野が広い法大DBユニットの囲い込みもあり、日体大WRはなかなかフリーになりにくかった。
これではあの優秀なバランスQB小林もしばしパスに詰まった。しかもその小林のキープランさえもロングゲインを許さない鉄壁な布陣に攻めあぐむ。
「やれることをクリアしていってはいるが、もうちょっとなんです。学生たちは自分たちで考えながら、本当によくやっている」
負れはしたがいくらかの満足感に、優しい眼差しで選手を見つめていた大山監督だった。
ファンダメンタルの強さを前面に押し出す日体トライアンファントライオン。
「全体にみて、もう一歩でしたでしょうか。気持ちを切り替えて次の中大戦、去年は自分のミスから3-0で負けたので、そのリベンジをしたいです」
エースWRで要所においてスーパーキャッチをみせて活躍したWR84徳永は、今後の試合でも後輩のWR85井上とともにQB小林のメインターゲットになる。
日本一の実力を持つ学生チアリーディングの本流、日体大ボルテックスのリズムある演舞と甲高い声援は、選手たちを、最後までしっかりと後押ししていた。
関東学生アメリカンフットボール連盟広報委員長 岩瀬孝文 -
第2節 2018年9月15日(土)立教大学○17-3●慶應義塾大学
立大、盤石なるままに
今秋のリーグ開幕戦をアミノバイタルフィールドのスタンドで、熱心に見入っていた立大ラッシャーズは、今日が待ちに待ったオープニングゲーム。
選手はその緊張感に包まれた。しかし相手は春にオープン戦で勝利していた慶大。それだけに、ベンチサイドには幾分かの落ち着きがあった。
「完勝なんですかね、一戦必勝でここまできました。これからも、それに変わりはありません。思うに開幕戦までに良い準備ができたのと、とにかくいいスタートを切れました」
自分自身への問いかけもあり、そこにいつもの哲学がある立大・中村監督だ。
今季、新調した上下ともに深みあるパープルカラーでまとめ上げた新しいカラーリングのユニフォームが、フィールドを縦横無尽に駆け巡った。
攻撃ではQB3若狭から立教志木高時代の同僚RB2荒武へとハンドオフ。立大オフェンスをリードした若狭はフィールドの中でこそ、たまに熱くなることもあったが、勝利のあとに少しだけうれし涙を流した。
「つねにOLを生かしながら走るスタイルで、オフェンスで勝ちたいと願っています。今日は粘り強く走ることができました。これからも厳しくレベル高い闘いになると思いますが、けっして気持ちで負けないようにテンポよく勝ち抜きたいです」
エースRB荒武は快活に語った。
そのプレイスタイルはオーソドックスながら、各所に堅実さが見られた伝統あふれる立大。
今シーズンは着実に上位クラスをみつめている。
若きオフェンスといえそうな慶大は、これまでの爆発力がなく静かにノーハドルで攻めた。そこには、かつてのスター選手が欲しくもある印象か。
この試合の得点は前半、リーグ屈指のロングキッカーK9廣田による3点のみに終わった。
ショットガン攻撃からワイドにWRを繰り出すが、立大のDB森上主将を中心とした四方八方に網を張りめぐらすバックヤードにパスコースを狭められ、ボールをカットされていった。さらにはパワフルなタックルを浴びてチャンスをつぶす。
「まわりが見えているようでみえていない…」
ややうなだれてしまった慶大のQB1西澤。
その強肩を利した素直で伸びるパスの先には、いるべきWRの姿がなくキャッチに至らずの場面もあった。
もとから得意としていたノーハドルオフェンスも、覇気に欠けるのか、元気がない。そこは逆にディフェンスがボールへの集散の速さとタフなタックルで補ってはいたが。
では、チームの機軸をどこに持っていくのか、次の伝統の早慶戦がその試金石となる。
「自滅でしたね、ミスがそのまま点数になってしまって。終始、ボールコントロールされていたイメージがあります」
そう言って、すっと口を結ぶ慶大・久保田監督だった。
前節の中大に接戦を演じ1本のFGで逆転勝利した勢いを忘れずに、ひたむきにリーグ戦を乗り切りたい、その打開策は必ずある。
関東学生アメリカンフットボール連盟広報委員長 岩瀬孝文 -
第1節 2018年9月2日(日)法政大学●14-16○明治大学
明大、劇的勝利
この瞬間、明大キッカーK37佐藤はドキドキ緊張しながらも、決めることができると冷静な心境であった。残3秒から蹴られたボールはゴールポストのど真ん中へ、静かに吸い込まれていった。
「春はそれぞれテーマを持って選手を試しながら使っていて、そこからですね、秋にイケそうな選手がいるかどうかを見極めながら。今日のMVPは全員ですよ、あのミスをみんなでカバーできて。まとまりがありました」(明大・岩崎監督)
明大伝統の紫紺魂と言えばわかりやすいが、この開幕戦にはそれ以上のまとまりとパワーを持ち備えていた。
夏のハードな合宿に、猛暑の八幡山グラウンドでの日々の地道な練習が実ったのだ。
互いにランゲームで前半10対7のシーソーゲーム。そこで4Qに法大のファンブルリカバーからの反撃を、法大QB1野辺が投じたポストパターンの高めなロングパス。それを、エースWR11高津佐が鋭くキャッチしてTD、13-14と逆転!これで勝利を手繰り寄せたかにみえた。
しかし、決してあきらめない明大だった。
味方のミスをみんなでカバーしようと、さらにまとまりにあふれた。
「皆を強烈にリードしてくれるRB22加藤がいてくれる。ですから、わたしはひたすらにチームをまとめ上げて、全体を見守りながら走っています。今日は試合前から4時間、すべて集中させてメンタルを切らすことなく、全力で行くんだという強い気持ち、それにあふれていました」(明大RB9福田)
リーグ戦において法大にじつに32年ぶりの勝利を得た明大だった。
自由闊達さと明るさが目を引く法大は、これも開幕戦ならではの妙なのであろうか、いくらか緊張感に包まれていた。
「どうにも相手の勢いに押された感がありますね」(法大・有澤監督)
前半にがっぷりよつに組みながら、そこで相手の弱点を探し、時間をかけてそこをていねいについていく戦術は、法大ならではのレベルの高さがあり、それに応えていこうとする選手個々のパフォーマンスがある。
「しっかりと走ることはできましたが、もっとフィジカルを上げて突き進みたいです」(法大RB3岩田)
法大の優れたWRと快速のRBその組み合わせがさらに完成の域に達すれば、もう怖いものはない。まだシーズンは始まったばかり、ここからの法大らしい展開に期待だ。
関東学生アメリカンフットボール連盟広報委員長 岩瀬孝文 -
第1節 2018年9月1日(土)早稲田大学○23-15●日本体育大学
とことん鍛え上げられた日体大
優勝候補の一角にある早大に敗れたとはいえ背番号11のエースナンバーを背負う小柄なQB小林は悔しがるどころか、逆になぜかにこやかな表情を見せていた。
「パスが通りました。やってきたことが正しかったという手応えがあって、それでこれからもやれるぞと思って。だから、ですね。監督からはいつも周りに目を配れと言われています。それがこの試合で、いくらかできたかなというのもあります。その教えを受けて、もっと、もっと突き詰めていきます」(日体大QB11小林)
そういう健やかさにあふれる表情であった。
試合中に幾度となく果敢にキープランに出ていくQB小林は日体大のスポーツアスリートらしい賢明な一面をのぞかせてくれる。
「小林には昔から期待しているからね」(日体大・大山監督)
常日頃から眼力鋭く、ベンチサイドで腕組みをして、けっして多くを語らない闘将大山監督だったが、フィールドに散らばる全員に心を配っていた。過去には、そこで少しでも気の抜いたプレイを見せようものなら、すぐに呼びつけて容赦なく気合を入れていた姿があった。選手に愛情を持って指導しているのだ。
最終の4Qには低く鋭いパスプロテクションに守られたQB小林から右エンドゾーン奥に、高らかに放物線を描く滞空時間の長いロングパスが放たれた。それを倒れ込みながらキャッチしたWR84徳永のヘルメットの中の目がキラキラと輝きにあふれ、すぐさま立ち上がりベンチへと走って戻っていった。その姿を暖かい目で見つめていたQB小林だった。
だから試合後のささやかな笑顔があるのだ。
今季、日体大は強い。
例年のごとく、スロースタートな印象は相変わらずだが、それが試合を追うごとにぐいぐいと本領を発揮してくる早大の底力は並大抵のものではない。ピークを設定してしっかりと仕上げて勝利への道をひた歩む。それが総勢217名、闘志あふれる早大の真骨頂だ。
「こんなもんですかね。全然ですよ、まだまだミスが多くて。反則も多いし、でも、ここから上げて行く。上がっていくことでしょう我々は。そういう望みは大いにあります」(早大・高岡監督)
雨にずぶぬれになりながら、ときおりホッとした表情を見せつつ堅実な物言いの高岡監督は充分に手応えを感じ取っていた。
今季からは、全米カレッジフットボールのテキサスA&M大学を彷彿させる、えび茶色の新しいユニフォームは、4年生のエキップメントスタッフがアイディアと工夫を凝らしたもの。早大カラーにホワイトパンツ、白い番号にはシルバーの縁取りを施した。
「ケガで選手をリタイアした平山が、みんなの意見をまとめてQBクラブと一緒に作ってくれたんですよ。格好いいですね、それに機能性も良いです。その平山の想いを乗せての試合なんです。ほんとうに頑張りがいがあります」(早大DL97斉川主将)
重厚かつ繊細なフットボールで観客を魅了する早大、まだまだこれから。
関東学生アメリカンフットボール連盟広報委員長 岩瀬孝文 -
第1節 2018年9月1日(土)中央大学●21-24○慶應義塾大学
わずか3点差に泣いた中大
まただ、なぜだ、今季もこうなるのか。
メインスタンドに陣取る人々の口からため息が漏れた。
それとともにベンチサイドでも、なんでなんだと、茫然とした眼差しがみられた。
「パスで先制されてもディフェンスには粘りがありました。それで追いついていけて。しかし結果的にTDを取り切れずにでした。チームとしてより取り組みを厳しく、詰め切れないことの改善と、1対1に強くあれです。幸いコーチ陣が充実してきましたので、これからさらに良き方向にいけると思います」(中大・蓬田HC)
いつも懇切丁寧、はきはきと応えてくれる若き蓬田ヘッドコーチだ。
こういう指導者であれば選手たちは想いをひとつに、勝利を目指していけるというもの。
開幕戦に敗戦した選手たちはいくらかうなだれながらも、すぐに踵を上げてロッカールームのハドルへと向かっていった。
そこには去年までとは違う何かがあった。
「詰めの甘さがあります、まだまだです。そこに、ミスに対する厳しい姿勢が必要であると考えています」(中大OL78川西主将)
今シーズンの中大は、大学の近隣にアパートを借り上げた寮が完備された。そこには広めなミーティングルームが設けられ、ほかの運動部と時間で分けられる人工芝グラウンド練習の前後には、入念なミーティングが行なわれていた。
選手たちが寝食をともにしながらのチームメイクで、短期間のうちにこれまでにない心の通い合いとまとまりが出来上がってきていた。
小差の3点で勝利した慶大こそ、前年は悔しい思いをしたゲームの連続であった。そこからの脱却が主となった秋のオープニングゲーム。
その得意とするスピードあふれるノーハドルオフェンスこそ完成の域に向かっているが、そこからのひとつ突き抜けが欲しいと願う熱心なOB達の姿がスタンドにみられた。
「ラストプレイで勝利できた試合でしたが、オフェンスはまだ経験を積み重ねていく状況です。そこにまだフィニッシュしきれないもどかしさがあります」(慶大・久保田監督)
タックルの早い集散など好ましい面もあるのだが、それは当然のこととして、内に秘めた闘志は並々ならぬものが感じられた。
「最後はチーム力で勝ったね。盛り上がってハートが強いときはいいのだけど、一旦、それが止まったときが問題だ。そこでボトムアップがあれば良いチームになれる」(慶大・スタントHC)
英語を交えて、少し興奮気味に熱く語ってくれたデイビッド・スタントヘッドコーチだった。
シーズンイン直前まで猛暑の中での静岡県伊豆高原合宿で、選手たちは精神的に充分にタフになることができた。そこからの上昇である。
「夏はメンタルの強化に力を注ぎました。試合は気持ちの勝負なのです。この勝利で、いいスタートを切れたと思います、自信が持てました」(慶大SB13松岡主将)
初戦の勝ち星は大きい。それをチーム全員が感じ取っていた。
関東学生アメリカンフットボール連盟広報委員長 岩瀬孝文